宗教倫理学会とは

宗教倫理学会の趣旨

宗教と倫理の関係をめぐる問いは、宗教が一般社会の中で存在する以上、不可避的に立ち現れる根元的な問いとして、すでに長い歴史を持っている。宗教的信念が超越的・脱日常的な方向を指し示すとき、それは社会で共有されている価値規範との間に、独特な差異を生み出すことになる。それが宗教の存在意義の一つであることは言うまでもないが、同時に、宗教の生み出す価値が、社会の価値形成や倫理観にしばしば大きな影響を与えてきたという現実がある。社会の世俗化や宗教の多元化が世界的な規模で進行する今日にあっても、宗教と倫理との間には、絶えず問い直さなければならない緊張関係が存在している。しかし、科学やテクノロジーの急速な進展によって、人類は未曾有の価値混迷の時代に直面しており、既成宗教が旧来の価値観を一方的に振りかざすだけでは、到底その混迷を打開することはできない。過去の伝統を踏まえながら、宗教と倫理の関係を、近未来を見据え根本的に問い直さなければならないのである。

本学会は、そのような現代の課題を学問的に受けとめるために、以下に記すような目的を目指して設立された。

目的

1.宗教に関連する倫理的課題を幅広く考察し、その成果を共有する。
それぞれの宗教の教学の中で倫理的課題が解釈される際、独自性と同時に、宗教の違いを越えて理解され得る一般性が存在すると考えられる。たとえば、なぜ善人(義人)が苦しむのか、また、なぜ悪人が救われるのか、といった問いは、多くの宗教に共通する古典的なテーマであると同時に、現代においても、その問いの有効性は広く認められる。
2.異なる宗教的立場に立つ者同士が誠実に対話を積み重ねていく場を提供する。
1)の目的を遂行していくためには、各宗教の自己完結的な解釈だけでは十分であると言えない。他の宗教にとっても有意味な言説として相互に意見を交換できる学問的基盤が不可欠である。
3.諸宗教間の対話のみならず、自然科学の諸分野との学際的な対話を積極的に進める。
21世紀における宗教の倫理的役割を考えるとき、宗教と科学の関係への問いを避けることは到底できない。
4.現代の社会状況の中で、両性の平等や、性のありかたを正面から見据えていく。
宗教や宗教が生み出してきた価値観は、従来、男性的な視点から形成されがちであった。また、性の扱いそのものがタブー視されてきた歴史的経緯は、多くの宗教に見受けられる。そのような現実への学問的洞察が求められる。
5.社会に潜在する倫理的関心事に注意を払い、本学会で得られた学問的成果を社会に還元する。
カルト宗教の非倫理的行為をきっかけとし、宗教一般に対する誤解や社会不安が大きくなっている今日、社会との交流の接点を担うことは、宗教的・学問的に大きな意義があるだけでなく、社会に開かれた姿勢を保つことになる。
6.国際社会に対して適切な情報発信ができるよう必要な措置を講じていく。
学会誌の発行、インターネットの活用などを通じて、本学会の成果を広く世界に伝達する。たとえば、生命倫理や環境倫理に関連するような課題は、地球規模の連携を必要とするのであり、国際社会との交流によって、より実証的な研究を展開することができる。